高齢者をメークで元気に 広がる「化粧療法」
2017.01.18
東京新聞 2017年1月18日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201701/CK2017011802000184.html
高齢者にメークをしてもらい、心や体を元気にする「化粧療法」が全国に広がっている。メークは、高齢者が明るく前向きに生きるための励みになっている。 (出口有紀)
「あら、女優みたいだよ」「わあ、きれい」。名古屋市北区の神社社務所で開かれた高齢者サロン。地元の女性十一人が、互いをほめ合った。
「頬紅をのせると肌が明るく見えて、かわいいですよ」。参加者に声を掛けたのは、サロンを主催している介護福祉士溝口昌代さん(57)。昨年十二月、資生堂の「化粧セラピスト」の認定を受け、初めて美容教室を開いた。
「女優」に仕上がるまでは一時間ほどかかる。まずはメーク前の体操だ。腕を前や横に伸ばしウオーミングアップ。それまでの化粧は完全に落とし、保湿、下地の各クリームを塗る。「ほっぺくるん、目の周りまーるく」とみんなで歌いながら、腕や指先を動かしてメーク。
同じく初めてセラピストとして活動した歯科衛生士倉沢織里(はたり)さん(52)は「耳に唾液のツボがあるので、しっかり刺激して」と、女子学生のようにはしゃぐ参加者たちに口の健康も意識させようと、ひと言付け加える。
参加者は「メークの前に疲れちゃいそうね」と言いながらも、顔の血色は次第に良くなり、口角が上がっていった。ファンデーション、頬紅は三色、アイシャドーは六種類を用意。いずれも高齢者用に同社が開発した。まるで化粧品店に並ぶ見本から選ぶよう。たくさんの化粧品の中から、自分に合うものを探すことも、脳の刺激になるという。
開始前、「私は化粧しなくてもいいわ」と話していた縫製業林たゑさん(78)は、参加者たちの華やいだ雰囲気に後押しされてピンクの頬紅をのせ、やさしい表情に。「化けるのは嫌だと思ってほとんど化粧しなかったけど、気分が良くなった。たまには変わらないかんかな」
夫の介護を十六年続ける主婦林和子さん(72)は「普段は主人が化粧の香りを嫌うので控えているし、メークする時間もないけど、きれいになるって、やっぱり楽しい」とほほ笑む。
溝口さんは「和気あいあいと話すことが頭の体操になる。みんな盛り上がり過ぎて、私の声が聞こえていなかったようですね」と苦笑。倉沢さんは「化粧という切り口で口腔(こうくう)ケアのことを話すと、みんな楽しんで聞いてくれる」と話していた。
◆上半身鍛え、介護予防も
化粧療法を開発した資生堂によると、高齢者が手や指、体を動かす化粧を続けると、気持ちが前向きになるだけでなく、握力や唾液分泌の能力も向上する効果があるという。
同社中部支社の奥野美保子さん(59)は「化粧品の容器の開閉や眉を描くことなど、化粧すること自体が上半身を鍛え、介護予防にもなる」と力を込める。女性だけでなく、男性でも同様の効果があるとしている。
これまで指導するのは社員だけだったが、昨年からは一般の人向けに化粧セラピストの資格制度を開始。高齢者の体の変化や化粧療法の効果などを学ぶ講座を修了した後、認定試験を受ける。昨年は全国で介護職ら三十二人が合格した。
認定試験は四月にもある。問い合わせは首都圏支社SLQ推進部=電03(3684)6121=へ。