自立促す介護 広まるか
2017.09.20
読売新聞 2017年9月18日
「報酬で評価」に賛否
むやみに手助けするのでなく、適切な食事やリハビリを取り入れ、一人で出来ない部分をサポートする「自立支援型」の介護をどう普及させるか。介護報酬の2018年度改定に向けて、こんな議論が先月から本格的に始まった。報酬を手厚くするよう求める声がある一方、評価の難しさから慎重論も多く、賛否が分かれている。
■現場のジレンマ
「訓練をして要介護度が改善しても、事業者にとっては減収になる。こうしたジレンマを緩和すべきだ」
介護報酬について議論する社会保障審議会分科会で先月23日、制度の矛盾を指摘する声が相次いだ。
現在の制度では、入所施設などで事業者が努力して利用者の要介護度を軽くできても、介護にかかる手間が減るとして、受け取れる報酬は少なくなる。例えば、介護付き有料老人ホームの入居者の要介護度が5から4に下がると、1人につき月2万円ほどの減額だ。現場からは、「『歩きたい』という本人の望みをかなえようと努力すると、先輩に怒られる」といった声が上がっているという。
こうした事情を踏まえ、政府は、今年6月に策定した成長戦略に効果のある自立支援を行う事業者を報酬で評価することを明記。18年4月の改定に向け、分科会で具体策を検討することとした。高齢化で増え続ける介護費用を抑えられるのでは、との思惑もある。
■利用者選別の恐れ
ただ、要介護度の改善ばかり重視されることに、慎重な意見も多い。
分科会では、「改善が見込まれる高齢者を事業者が選別する恐れがある」といった意見が出た。認知症の90歳代の人は、骨折で入院した60歳代の人より身体機能が回復して要介護度が改善する可能性が低い、などと判断され、利用を断られる恐れもある。
「要介護度だけでは、本人の意思を十分にくみとれない」という見方もある。介護保険制度の理念は、介護サービスを使わずに暮らせることではなく、周囲のサポートも得ながら、最期まで本人が望む生活を送れることとされてきたためだ。
こうした課題を踏まえ、分科会では、身体機能の改善といった成果だけでなく、専門職による訓練の実施といったプロセス(過程)の要件も組み合わせて評価することなどが提案された。
「身体機能の改善は伴わなくても、介護職員と家族と一緒に外食をしたりと、生活の質を向上させることは可能」などと、生活の質の向上を評価するよう求める声も多かった。
一方、どのような介護が自立支援に効果があるのか。こうした研究も遅れている。
厚労省は4月、詳細な介護内容や体の状態など個々人のデータを新たに収集する方針を決定。20年度にも、科学的に効果が裏付けられた介護サービスを受けられる事業所を厚労省のウェブサイトなどで公表したい考えだ。これとは別に、今夏には、科学的根拠を伴うアイデアを公募するという異例の取り組みを始めた。
ただ、妙案は示されておらず、研究が今後、どこまで進むか未知数だ。
<介護報酬> 介護サービスの対価として事業者が受け取るお金。厚生労働相の諮問機関である社会保障審議会分科会で、有識者や業界団体、保険者の代表らが集まって議論し、国が決める。3年に1度、改定される。
積極的な市区町村に財政支援へ
自立支援を後押しする仕組みを巡っては、介護保険の保険者である市区町村の姿勢も問われそうだ。
今年5月に成立した改正介護保険法で、来年度から、自立支援に積極的な市区町村に国が財政支援を行うことになったためだ。
厚労省は、自立支援の積極性を測る指標について、要介護度が維持、改善した人の割合のほか、介護サービスの利用計画が適切かを多職種で見直す「地域ケア会議」や運動教室の開催など、様々な指標を設けることを検討している。
ただ、どんな指標をどれくらい設けるか、具体策は示されていない。
指標を2、3個に絞ると、「その取り組みばかり一律に実施し、せっかく育ってきた各地に合った取り組みを阻害してしまうかもしれない」(厚労省)。とはいえ、10、20個と増やした場合、小規模自治体は人手が限られて不利になる恐れがあるという問題も生じかねないためだ。
財源のメドも立っておらず、国は、法改正の実効性を高めるため、財源も含めた具体策を早急に示す必要がありそうだ。
(田中ひろみ)