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介護保険法審議で着目したいポイント

2017.02.10

ケアマネタイムス 2017/02/09

http://www.care-mane.com/news/8061?btn_id=category&CID=&TCD=0&CP=1

2月7日、首相官邸の定例閣議で、「地域包括ケアシステムのための介護保険法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。これにより、間もなく国会での同法の審議が始まります。今回の法律案も、2014年に成立した改正法と同様に複数の法律(医療法なども含む)を一括で審議するスタイルとなります。

3割負担となるのは本当に「富裕層」なのか

今回の法律案で介護保険に絡む大きな見直し点の一つが、利用者負担への3割導入です。現行の2割負担の該当者のうち、「年金収入等340万円以上」というラインで負担を3割とするもの。仮に同法が成立した場合、2018年8月より実施される予定です。前回の2割負担導入から1年半で法案化、3年で実施という慌ただしい変化は、利用者のサービス状況に大きな影響を与える可能性もあるでしょう。

介護保険にかかる財政負担が大きくなる中で、「富裕層にそれなりの負担を求めるのはやむなし」と考える人は多いかもしれません。問題はやはり、「国が設定するラインが果たして富裕層に当たるのか」です。介護の場合、医療と違って「いつまでサービス利用が必要となるか見えにくい」ことがあげられます。

また、子供世代の経済格差が広がって、親の介護は「親自身の資金でまかなわざるをえない」というケースも目立ちます。そうした中でボーダーライン付近の利用者に「サービスの利用控え」が起こらないのか。「控えた」分、高齢夫婦世帯における配偶者の介護負担につながらないのかどうか。国会審議でも、このあたりは十分に議論されるべきでしょう。

2割負担導入後に見られる気になる兆候

今回の3割負担案のベースとなった介護保険部会の議論では、厚労省より「2割負担導入後の受給者数の(対前年度同月比)伸び率」のデータが示されています。それによれば、「顕著な差は見られない」というのが厚労省の分析です。ただし、居宅サービスで見ると、2013年2月からの毎年度の伸び率が4~5%なのに対して、2割負担導入後は3.7%と落ち込んでいます。一方で、要介護3以上の特養の受給者は伸び率1~3%台だったのが一気に5%に跳ね上がりました。

2015年度から特養の利用が「原則要介護3以上」に限定された影響など、さまざまな要因は考えられます。そうした中で、「居宅でのサービス利用控え」が特養に流れたという可能性も無視できません。「特養の方が居住費・食費の自己負担が発生しているのだから、負担はかかるのでは」と思われるかもしれませんが、ここで着目したいのが居宅サービスにおける短期入所サービスの利用状況です。

必要なのは「サービス利用状況の変化」分析

2割負担導入後の1人あたり受給額の推移を見ると、居宅サービスでは短期入所の減少が目立っています(介護保険3施設も大幅に下がっていますが、この減少は基本報酬の引き下げに由来すると思われます)。つまり、自己負担増の影響が、「家族のレスパイト」にかかる短期入所の利用控えにつながり、「それなら、空きがある部分で特養に入る」という傾向が強まっていることも考えられるわけです。

しかし、2割、3割負担となれば、長期にわたる特養入所は、ボーダーライン世帯にとって家計へのダメージが蓄積しかねません(かなりの富裕層なら、有料ホームに入る選択肢も増えるはずで、ボーダーライン世帯が特養に集中していることも想定されます)。

となれば、必要なデータは単純な受給者数の推移ではなく、サービス利用状況の分析となります。「2割負担導入で利用者のサービス状況に何が起こっているか」が、法案審議のポイントになるわけです。特に、特養入所者とその世帯の動向がどうなっているか、居宅の家族のレスパイトは機能しているのかという点について掘り下げを期待したいものです。

福祉ジャーナリスト 田中 元