カレーの作り置きで食中毒 熱に強い菌が残り増殖
2017.05.11
東京新聞 2017年5月9日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201705/CK2017050902000182.html
二日目のカレーはおいしいといわれるが、作り置きが原因の食中毒が各地で起きている。食品中で増えたウエルシュ菌によるものだ。厚生労働省によると、昨年の発生件数は三十一件(患者数千四百十一人)。この菌には熱に強いタイプもあり、「火を通したから安全」と考えるのは禁物だ。 (竹上順子)
今年三月、東京都世田谷区の幼稚園で昼食にカレーライスを食べた園児ら七十六人が、下痢や嘔吐(おうと)などの食中毒症状を訴えた。保健所によると、複数の患者の便からウエルシュ菌を検出。都福祉保健局によると、カレーは前日に園児らが調理し、一晩置かれたものだった。
ウエルシュ菌は人や動物の腸管、土壌、食品など自然界に広く分布。食品では特に肉に多く、菌が大量に増殖した状態で人が食べると小腸内でさらに増え、毒素を出して腹痛や下痢を引き起こす場合がある。潜伏期間は六~十八時間。症状は一~二日で回復するが、持病のある人などはまれに重症化するという。
都健康安全研究センターの小沢悠作さんによると、ウエルシュ菌は加熱すると死滅するが、中には熱に強い殻で覆われた「芽胞(がほう)」を作り、生き残る菌がある。耐熱性の高い芽胞は一〇〇度で一時間以上の加熱にも耐えられる。
調理後すぐに食べれば良いが、常温で保存すると温度が下がる途中で、生き残った菌が急激に増えることがある。増殖する温度は一二~五〇度で、特に四三~四五度で増えやすい。
小沢さんは「大量のカレーやシチューなど、とろみのあるものは中心部分の温度がゆっくりと下がり、菌の増えやすい状態が長く続く」と指摘。またウエルシュ菌は酸素のない状態を好んで増殖するが、大量調理された食品の中心部は酸素のない状態になりやすい。
前述の幼稚園のカレーは調理後、二つのずんどう鍋に入ったまま室温で一晩置かれていた。職員が再加熱したが、弱火だったため不十分だったとみられる。菌が増殖しても見た目やにおいは変わらない。
滋賀県守山市でも三月、給食弁当業者が当日朝に調理して常温で保管していた昼食用カレーで七十七人がウエルシュ菌食中毒になった。筑前煮など肉と野菜を使った煮物でも起こる。
耐熱性の芽胞を形成したり、熱に強い毒素を出したりする菌はウエルシュ菌以外にもある=表参照。
ウエルシュ菌には▽大量調理を避ける▽調理後は早く食べる▽保存する場合は早く冷めるよう容器に小分けし、冷蔵庫に入れる▽再加熱の際は鍋に移して火にかけ、よく混ぜて空気に触れさせ、温度のむらをなくす-などがポイントだ。
おいしさと安全は両立できるのか。東京家政大大学院の長尾慶子客員教授(調理科学)は「カレーを冷蔵庫で低温保存しても、一晩あれば、味は具材の内部まで均質に浸透すると考えられます」。煮物は具材を小さく、薄く切れば、温度が早く下がり、味も均等に染みやすいという。