アルツハイマー病診断が向上 症状なくても早期に発見
2017.05.17
産経ニュース 2017.5.16 09:10
http://www.sankei.com/life/news/170516/lif1705160026-n1.html
認知症の中で最も多いアルツハイマー病(AD)の診断が、技術革新によって格段に向上している。4月に京都で開かれた「第32回国際アルツハイマー病協会国際会議」では、症状として表れない段階でも脳内の画像によって診断できることが報告された。発症までに25年以上かかるともいわれるAD。早期発見で進行を防ぐなど、効果的な治療計画の策定に生かされそうだ。(坂口至徳)
◆認知症国際会議で
国際会議では、「認知症の最新の科学」をテーマに全体会議を開催。オランダ・アムステルダム自由大学医療センターのフィリップ・シュルテンズ教授(認知脳科学)が、110年に及ぶAD診断の歴史について説明し、「治療は『治癒』まで至っていないが、実現するためには確度の高い診断が必要」と強調した。
ADの発症原因は、脳内に「アミロイドβ(Aβ)」や「タウ」と呼ばれるタンパク質が沈着し、脳神経細胞を死滅させるという仮説が一般的だ。
ADは、ドイツの医師、アロイス・アルツハイマーが妄想や記憶障害が進行する女性の治療を通じて、1907年ごろに発見、報告。患者の死後の解剖により、脳の神経細胞が変化し脱落するなど特徴的な現象があることが分かった。
しかし当時は、生存している患者の脳を詳細に調べる技術はなく、臨床医が診断できるようになったのは、84年に米国立神経障害・脳卒中研究所などの診断基準が発表されてから。妄想の有無や記憶障害の度合いなどを基準とし、脳腫瘍などADとは異なる原因の病気を除外して診断するようになった。
◆「PET」に期待
シュルテンズ教授によると、90年代に入ってから脳科学研究の技術が急速に進展し、診断の確度も向上した。脳内の画像が得られるMRI(磁気共鳴画像装置)によって、脳内の記憶をつかさどる海馬(かいば)という部位がADでは萎縮しており、その程度が大きくなるほど進行していることが分かった。
海馬の状態などを調べることで、記憶障害が少し見られるだけの症状でもADに進行する可能性が高い「軽度認知機能障害(MCI)」を早期診断できる可能性があると説明。
シュルテンズ教授は「さらに大きな期待がかかるのが、PET(陽電子放射断層撮影)という装置を使った診断」と指摘。放射性物質を静脈注射することで脳内の物質の動向や代謝が分かり、Aβなどの蓄積の状態や脳の機能変化を調べることによって、客観的な診断がつく可能性が出てきたという。
◆リスク回避に役立つ
このほか、脳脊髄液に含まれるAβ、タウタンパク質を調べる腰椎穿刺(ようついせんし)という方法も紹介。妄想や記憶障害などの症状とは切り離した形で、生物学の指標であるバイオマーカーを手掛かりにした測定技術が広がっている。
同教授は「ADの症状が明確に出ていなくても、バイオマーカーの変化や海馬の萎縮の測定などにより早期にリスクが診断できる」と解説。「健常の状態からMCIを経て発症に至るまで連続して追跡でき、ADの進行を遅らせたり、リスクを回避したりする手立てが立案できるようになる」と今後の展望を示した。
さらに「がんの治療が、がんの種類や患者の病態に合わせて個別化することで進歩したように、ADの治療も個別化できるよう診断技術を高めていきたい」と意欲をみせている。